「彼女が探偵でなければ」読了記 │
あらすじ
こうなることを知っていたら、わたしは探偵をやめていただろうか。 森田みどりは、高校時代に探偵の真似事をして以来、人の〈本性〉を暴くことに執着して生きてきた。気づけば二児の母となり、探偵社では部下を育てる立場に。時計職人の父を亡くした少年(「時の子」)、千里眼を持つという少年(「縞馬のコード」)、父を殺す計画をノートに綴る少年(「陸橋の向こう側」)。〈子どもたち〉をめぐる謎にのめり込むうちに彼女は、真実に囚われて人を傷つけてきた自らの探偵人生と向き合っていく。謎解きが生んだ犠牲に光は差すのか。痛切で美しい全5編。
評価
総合評価(読後感) |
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★★★★ |
89/100(点) |
ストーリー | 文章表現力 | リアリティ | 緊張・切迫感 | 驚き・意外性 |
---|---|---|---|---|
★★★★★ | ★★★★ | ★★★★★ | ★★★★ | ★★★★ |
推しポイント(ネタバレ無し)
- 前作ありの続編だが、ここから読んでも問題なし(自分がそうだった)
- 主人公が探偵だから気付ける、日常から派生するミステリー
- 全5編どれもハズレ無し。それぞれ違った味がある
懸念点(ネタバレ無し)
- 超展開とか、大どんでん返しとか、そういう本ではない
感想(ネタバレあり)
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全5編。扱うテーマは異なるが、主人公の掘り下げに首尾一貫している
前作があったのか。。。とほぼ読了寸前に気づく。
最近そういう連作に触れる機会が多い。夕木春央とか、桃ノ雑派とか。 自分は本屋でジャケ買いするし、特に情報収集をしないので帯や本自体に「●●の続編!」とか書かれてないと気づかないし、注意も払っていない。
「彼女が探偵でなければ」は、本作から読んでも全く問題なかったと思う。何も違和感が無かった。 唯一、第1篇の「時の子」だけは主人公の目線ではなく時計屋の息子の一人称視点なので戸惑いがあった。
以降の第2篇からは、みどりについてのキャラクター造形がある程度構築されたのでスラスラ読めた。 全5篇で、みどりの情報は逐次アップデートされていくのだが、はじめに感じた印象とズレが無かった。
日常に潜む、"普通の人"なら見逃してしまう「違和感」から始まるミステリー
というのが、基本的に全5編に共通している事件のスタート。
違和感に気づく、気づいてしまうのは「探偵としての知見」という技術的な話より、「森田みどりのパーソナリティ」という方が合っている。
森田みどりの客観的に見たパーソナリティ
- 父が創業した探偵事務所で働いている
- 7年前に「女性探偵課」ができ、課長になった
- 本来はマネジメントではなく、現場で探偵として従事していたい
- 簡単に結論を出す、決めつけることを嫌う
- 独立したECコンサルの夫、息子が二人いる
ここまでの特徴は、ミステリーの「探偵役」として特筆すべき点は無い。 むしろ、20代後半〜のサラリーマンであれば実体験として共感することが多い内容になっている。
話が広がるのはこれらの要素ではなく、森田みどりの「一度気づいてしまった謎や違和感を看過出来ない体質」が大いに関係している。
森田みどりは特別なのか?YESでもありNOでもある
話の中で、森田は下記のように部下の岬から「一流だ」と言われている。
「研究をはじめてから判りました。一流と二流を分かつ壁は、執着にあるんです」 「あらゆることを犠牲にしてでも、真実を追い求める。それがない人は、どれほど頭がよくても一流にはなれないんです。」
これは、「誰もがやろうとすれば出来ること」という範囲に収まっていると思う。が、実際に行う人が「少ない」ので「希少な性質」のほうが表現としては正しいのではないだろうか。
それが読者が森田みどりに感情移入・共感できる装置として機能しているように感じる。
謎解きはフェア
本作で提示される謎は基本的にフェア。読者も基本的には辿り着けるように設計されていると思う。 (文章外にヒントが隠されているケースは殆ど無い。クルド人の事件くらい。)
登場人物は少ないので、フーダニットよりホワイダニットで構成されているミステリー。 個人的にこれは好き。フーダニットになると、それなりに多くのキャラクターを登場させなければ成立しない上に、全員の背景をある程度掘り下げないと意外性を確保できないから。
まとめ
- 帯に偽り無しの「精緻でビターなミステリー」。
- 「森田みどり」のキャラクターもの、本作から読んでも問題なし。
- 文章は読みやすく、情景が頭に浮かびやすい。
- 続編があったら絶対に読みたいし、大事にしたい作品。
- 前作も読んだら評価が変わるかもしれない(注文済み)