読書百席ブログ

読了した本の感想をつらつら記載します。自分用の読書ログが主目的です。

「続・こうして店は潰れた」読了記 │ 明確な"結末"を迎えたビジネスを追体験できるのは稀有。もっと分厚くても読める。

あらすじ

どんなに頑張っても 駄目なときはある。 105年の歴史に幕を下ろした倒産劇から早3年、 社会はスーパーやまとがかつて存在していたことも、 私が破産した「日陰者」であることもまったく関係なく、 あたりまえの日常が流れている。 陽の当たる場所で一生を終えたかった私だが、 そううまくはいかなかった。 同じ境遇で悩む人たちは多い。 もがき苦しみ、みずからを袋小路に追い込み、命を絶つ……。 私は手前まで行ってその景色を見てきた。 本書は成功者のキラキラした復活話ではなく、 会社を潰した人間の「負け犬の遠吠え」かもしれない。 ただそこには、いくばくかの真実もあるはずだ。

評価

総合評価(読後感)
★★★★
84/100(点)

まとめ

この本で得られるのは、以下のようなものだという解釈です。

  • 山梨で最大16店舗、64億の売上を誇った地域密着型スーパーの倒産劇の追体験
  • 会社が倒産し、個人が自己破産をするとどんな制限を受け、どのように暮らしていくのかの知識、恐怖への耐性
  • 代表の小林 久さんが、どういう考えでどういう作戦を立て実行していったかというノウハウ
  • 見栄や意地を捨て置き、経営維持のために補助金の知識をつけ実行する、また外部の支援団体からの協力も仰ぐのが重要、という教訓

以上です。以下は読了した感想や、ネットを漂っている情報を集めたものです。

倒産は、かくも突然に訪れるものなのか

2017年12月、直近までの店舗の閉鎖(黒字化するまでの)や返済のリスケ(延期)などの経営的なリスクはあったものの、事業自体は黒字化していたタイミング。それなのに、取引先からの信用不安により納品が止まった。それだけで、それだけでの倒産。

銀行の取り付け騒ぎ宜しく、一度不安を煽られてしまうと「我も我も」と他の取引先からも納品が止まる。 債権をいち早く回収するための、自社商品の改修をする卸売業者。

店舗に商品が並ばない。回転率の高い日用品・食品販売を生業にしているが故に、棚の空白は顕著になる。

「新しい卸先を見つければ良いのではないか」 「一旦店舗を休業するなりして、債権者に経営の無事を説明して立て直せば良いのではないか」

リアルはそうではなかった。

・仕入コストを切り詰めるため、複数あった卸先は集約していた ・旧知、信用のおける卸先の社長から「もうどうにもならない」と諭された

この社長のモットーは「大丈夫!心配ない!なんとかなる!」。 モットーに則り、今まで多大な苦難を乗り切ってきていた(本書にそれも書いてある)

その社長が決断したこと。他者は、何も言えない。

なぜ会社は潰れたのか?

第8章で小林社長は下記の5つに細分化して述べている。

  1. 営業方針や人事管理、資金繰り等社長がすべてを担い、部下に任せなかったこと。対外的にも同業他社とは歩調を合わせず、反感を買ったこと。そのため社長が裸の王様となり第三者の進言に耳を貸さず、重要な情報が入らなかったことである。

  2. 地域貢献の旗の下、大手なら手を出さないことまで実行したが、話題にはなっても地域の消費者の購買を担保するものではなかったこと。

  3. 社内に財務の専門家を置かず、日銭商売のやり繰りに甘えて抜本的な改革が遅れたこと。

  4. 代替わりの逆境から復活した成功体験(赤字の店舗の閉鎖、経費や仕入れの見直し)が、現在でも通用すると信じてしまったこと。

  5. リスケや支払い遅延から生じた信用不安を大手問屋が認めなかったこと。その結果、納品停止を予測できなかったことである。

と述べている。

ワンマンは悪いことなのか?

先代社長から後を継いだ(と言っても経営再建のために意図的に退任してもらった形だが)際、既得権益を享受していた親族にも退いてもらったとの記載があった。族企業と見られるのを嫌った節もあったのかもしれないが、会社に頼りになる親類はいなかったと思われる。

ある程度任せていた部下もいるとは思うが、本著の中では苦言も呈してくれるようなブレーン的な存在の影も見えなかった。 (出版に際し、少しでも部下へ罵詈雑言が飛び交わないようにした配慮かもしれない。あえて登場人物を自身と取引先、金融機関に限定したのかも、ということ)

「移動スーパーやまと」「激安298円弁当」「レジ袋有料化」「家庭用生ゴミの仕入れ」など小林社長はアイデアマンだ。それを独断する。

これは創業者の功と罪で、どちらかだけではない。アイデアや実行力が無ければ経営は成り立たないし、机上で会議をしているだけでは実現不可能だ。ただ、現場実務は振り回されたことだとも思う。

アイデアを形にする優れた実務家が側にいたことも伺えるが、やはり「ブレーンの不在」を想像させられてしまう。 業界団体にも属していなかったという事から、ビジネス上での孤立が加速していってしまった嫌いはどうしてもありそう。

ワンマンは悪いことではないと思う。ただ、物言う部下や社外の知人を作らないと行き詰まった時、暗闇に一人。

関係者の話も聞いてみたい

取引先、社員、アルバイト、など社長以外の第三者の話も聞いてみたい。 本書は良くも悪くも「自伝」なので、一部美化されていたり、一部卑下し過ぎている点などもあるだろうし。

また、社長自身が気づけていなかった外部から見た「倒産の要因」もあるのではないだろうか。

ただ、この本は「社長自身が書いた本」が故に全てが生の話だ。変に編集が入ったり、インタビュアーがいたらテイストが全く変わっていた可能性があるので、これはこのままで良かった。

スーパーやまと、小林社長は実際どうだったのか?YoutubeとXで遡ってみる

Youtube


www.youtube.com 2023/01/31に投稿されたもの。破産から約5年後。動画から、とても穏やかな人柄に思える。


www.youtube.com 2014/06/18に投稿されたもの。破産の3年半前。赤字脱却のため店舗の閉鎖を開始して2年目、銀行への返済のリスケを要請していた、という年。

破産後の動画と比べると、現役ならでは勢いを感じる。と同時に、例えばインタビューに際し足を組んでいたり、「大手から"余計なことをするな"と抗議が来た。それが嬉しかった。」という発言だったりから、好戦的だったり"驕り"の匂いが少し感じられる、気がする。

X(twitter)

検索ワード「スーパーやまと」で時系列で下ってみた。

298円弁当カテゴリに大手参入?

倒産の2ヶ月前。当初は珍しかったであろう低価格のボリューム弁当カテゴリにも大手資本が参入した形跡が・・・

ヴァンフォーレ応援どんぶり

小松菜って東京名産だったんだ。知らなかった。東京といえば?って確かに難しい。

店長になりたい

アカウントが削除されていて、前後の文脈がもう読み取れないのだが揶揄や変な意味では言ってないっぽい。

スーパーやまと限定

小林社長の言う「地元癒着(悪い意味じゃない)」が伺い知れる写真。

お弁当美味しそう

今、仮にやまとが生き残っていて、この値段が実現できるのかわからないが・・・。メイン、パセリ、ポテサラ、つけもの、と入ってこの値段は安いし見た目もいいな

TVタイアップ

広告かな。YBSテレビ「ててて!TV」には定期的に取り上げられている模様。

撤退後

本書にあった「やまとが居抜きで入るから、山梨ではスーパーは撤退したら更地にする文化になった」ってやつだろうか。

爆音ズンドコ節

都心のバニラトラックみたいなものだったのだろうか。嫌がられている雰囲気ではない。

田舎といえば?

ある意味ではランドマークと言えるほど根付いていたということ。

298円弁当の半分のやつ

「ボリュームが多いという声に応えて、半分のも作った」というやつかな?

応援どんぶりのチラシ

当初のコンセプトは「相手を食ってしまえ!」だったそう。Jリーグ側から理念に反すると却下されたとか。

どんぶりは好評しか見ない

「スタジアムで売ってくれればいいのに」とのコメントも。

地元との一体感

ただスポンサーになるだけでは購買に結びつかないのだろうけれど。 応援どんぶりのようにタッチポイント作らないと。そこが難しそう。

移動スーパーやまと

これは新車らしい。韮崎市イメージキャラクター「ニーラ」は今も健在。

自ら広告塔になることを厭わない

ジャパネットの創業者の高田明さんに近いものを感じる。成功するほど世代交代が大変そう。

珍しいネガティブコメント

大手資本のくだりは的を射ている。

EV充電器も設置していた模様

2015年の設置はかなり早い・・・のかな?調べたら2014年に9店舗に設置したとのリリースを発見。

ロケ地提供として

惜しみなく提供していたとか(他社で対応するところが少なかったとも)

元々は2号店は出す予定ではなかったらしい

「魚屋さんに請われて」とのこと。

もう1店舗の甲府銀座店

一つ前の写真が魚屋の居抜きっぽいが、こっちは元スーパーだろうか。

辛口コメント2

弁当は安い、と。

旧デザインの看板

「イトーヨーカドーの鳩のマークに対抗するため、やまとの「Y」の字に雀がデザインされている」とのこと。

話が面白いらしい

この話題もみかけるやつ。

震災の寄付をしていたらしい

twitterの投稿を見ると弁当は軒並み300円になっていて、本著の298円とは食い違うと思っていたがそういうことなのかな。

ミニスーパーの支援らしい

ある意味では競合?(同業)を支援。 「だって悔しいじゃん! 大手ショッピングセンターにいいようにされたかぁねえじゃん! 俺、そういうの、うんと嫌いさあ!」 という発言を小林社長はしていたらしい。

twitterで辿れたのはここまで。

Google map

富士見店(2012年6月)

現在はウェルシアになっている。

須玉店(2014年8月)

現在はAEON BIG。

長坂店(2014年9月)

現在は一部がコインランドリー、他大部分はやまと時代のままのよう。

小淵沢店(2014年8月)

現在はスーパードラッグ サンロード。

武川店(2014年8月)

現在は株式会社オキサイド。隣のコメリ資材館はずっと変わっていない。。。

新鮮館やまと大里店(2015年7月)

現在テナントは無くアパートが建っている。

春日居店(2017年12月)

現在はツルハドラッグ。

六郷店(2014年8月)

現在も、やまと時代のまま。

最後に

本を読むだけでなく、ネットを漁るだけでも「スーパーやまと」に関する情報はまだまだ集められそうだった。 社長の小林さんが言うように、消費者がやまとを腐しているのは殆ど見かけることが無かった。

卸先や金融機関がやまとに対しての文句をネットに漂わせる訳もないので、この点ばかりは全くわからないが。

"本"単体で得られるものだけでなく、ネットや新聞・官報なども含めるとまだまだやまとについては調べ甲斐がある。 ライフワークとして追記、保管していければなと思う。 そういう意味も含めて、稀有な読書(から連なる体験)だったと思う。

小林さんは講師としての仕事を請け負っているらしいが、どのくらいの金額で来てくれるんだろう。 ちょっと雲行きが怪しくなってきた勤め先で話して欲しいな、と思ったり思わなかったり。

以上です。